悲しい事があると、忘れたくてたまらないのに。

嬉しい事よりも悲しい事の方を、どうしても覚えておいてしまうんだ・・。

どうしてかな・・。

嬉しいことも悲しい事と同じくらいあったはずなのにね。

 

 

 

第十章 ~ サクラ舞うとき  後編 ~

 

 

「あ、あの・・ごちそうさまでした。」

そう言ってリョウはペコリと頭を下げた。

あの後彼はサクラの好意に完全に甘えてしまい、デザートまでいただいたという始末だ。

「いーよ、いーよ。 それより、お腹一杯になったかな?」

「はい!」

世の中、こんないい人がいたなんて・・・とリョウは思う。

なんだか涙が本気で出そうだ・・・。

「じゃぁ、僕はこれで・・。」

そう言ってリョウがサクラと別れようとしたときだった。

ガシッ!!

え!?

突然袖を摑まれてリョウは驚く。

「・・・サクラさん?」

サクラはにんまりと笑みを浮かべている。

その笑顔に思わすリョウは後ずさりした。

「リョウ君さぁ、これから首都出て、外に行くんでしょ? 旅するんだよね??」

嫌な予感・・・。

「はい・・。」

「良かったら、僕も一緒に連れていって欲しいなぁ~。」

にっこりとサクラは笑う。

「だだだだ・・駄目ですよ!!!!」

やっぱり!!!!!

「どうして?」

あんだけ食べさせてあげたのに~とでも言うように彼はリョウの袖をつかんで離さない。

あれは!恩を売るためだったのか!!?

「どうしてって!!! ぼ、僕の旅は普通の旅じゃなくて、とっても危険で!

 一般人のサクラさんを巻き込むわけにはいかなくて!! 

第一、サクラさんここに住んでるんでしょ!?

いきなり何を言い出すんですか!!! と、とにかく駄目です!

 絶対にっっ!ふざけるのはよしてくださいよ!!」

「僕、ここには出稼ぎに来てるだけだし、全然大丈夫だよ。それに、子供だけの旅じゃ危険だよ?

今みたいにお金だって満足に持ってないじゃないか。だから、僕がいたほうがいいんじゃない?

危険って言ったって、僕も少しなら戦う心得はあるしね。

だから大丈夫。君は何か目的があって旅をしてるんだろ?

 その手伝いをしたいなぁって思ってさぁ・・。ただ、それだけ。」

悪意のない笑顔・・・。

しかし、その中には有無を言わさぬ力がある。

ここで断ったら今腹のなかにあるもん全て出せとか言うつもりだろうか。

 

うっ・・・。

 

サクラはにこにこした目でリョウを見つめている。

「と、とにかく・・・駄目です。じゃ、サクラさん!!僕はこれで!ご馳走様でした!!」

 

そう言ってリョウは一目散でサクラの元から走り去った。

袖がビリって言ったような気がしたが気にしない。

あんなに良くしてくれた人に対してこんな仕打ち・・・とも思ったがその考えをすぐに捨てた。

 

何と言おうとこの旅にサクラを巻き込むわけにはいかないのだ。

自分の旅はとても危険で、命に関わるかもしれなくて、

「・・・・死ぬかも、しれないんだ。」

ぽつりとリョウはつぶやく。

軽々しい気持ちでは・・・出来ない。

自分も狙われている・・。命を、だ。

もう、分かっていることだ。

今までそんな経験はない、当たり前だけど・・・。

この前、魔物に襲われた所をレオナに助けてもらって・・命を失う危険を初めて知った。

 

レオナを・・・見つけなきゃ。

そう思ってリョウは首都の出入り口の門を目指す。

その時だった・・・・。

「リョウ・コルトット、だな。」

背後から声をかけられた。

!!!

背中を襲う冷たい感覚・・・。

振り向いた彼の前にいたのは、黒装束の一人の兵隊・・。

ZEROの手下!!

リョウは全身が逆立つ思いがした。

腰にさしていた短剣を素早く抜く。

 

「歯車の一人・・・。ZERO様の命により、命、貰う!!!」

 

そう言うが早く、兵隊は剣を抜き、リョウに向かってきた。

リョウはギリギリの所でその刃を止めてすばやく後ろに下がる。

「う・・・わっ!!」

短剣だけじゃ、応戦出来ない!!

そもそもリョウは剣術の正規の訓練を受けていない。

学校で護身程度に習った程度だ。 

相手は
ZEROの手下・・。

邪気の塊といえど、ちゃんと意思を持ち、戦うことに慣れている・・・!!

再び襲ってきた刃を止めたリョウは、勝つことは考えていなかった。。

・・なんとか振り切らなきゃ。

視線を周囲にめぐらす。

相手は一人。

スキを作れば逃げられるはずだ。

リョウは次々と降られてくる刃を受け止めながら必死で逃げ道を考えていた。

しかし、相手のスピードは速い。

スキなんて・・・。

 

「あれれ~? リョウ君、ピンチ?」

!!!

この声・・・。聞いたことのある声。

ふと後ろから声をかけられた。

「サ、サクラさん・・・・・。」

青年の銀色の髪が微かに揺れる・・・。

眼鏡の奥の瞳は不敵に輝いていた。

 

 

 

 

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